
オレは余り夢を見るほうではない。
が、そんなオレが年に2~3回、
決まってみる夢がある。
この夢は昔の自分を語らなければ理解して
もらえないので、まずそのことから書く。
昔、ある海運会社で船乗りをしていたオレ。
40歳前にそこを辞め陸上の商売に挑戦した。
そこは陸に上がった河童とはよく言ったもの、すぐに夢破れお金に困り出した。
幸いに船長免状を持っていたので、人材派遣会社を経由して船乗りに戻ることができた。
40歳の時であった。言ってみれば期間雇用の出稼ぎ船長である。
船長免状は国際免状なので、探せば世界中のどこかに職があり、何とか一家が食いつなげた。
が、ひとつ困ることがあった。
「すぐに◎◎に飛んでほしい、そこで、◎◎という船に乗って欲しい」
という急な仕事の依頼がくることである。
断ると次から仕事をもらえなくなるので、そうした指示には絶対に従った。
そういう生活が40~47才まで続いたが、この間の「指示に従わねばならない」という強迫観念が、なかなか消えないのである。
その圧迫感からか、今もって次のような夢を見るのだ。
「今からすぐにキューバに行って乗船してくれ」とのオーダーを受ける。
なぜか、キューバが多い、でなくともカリブ海の国が多いのは何故か解らない。
とにかく、すぐに空路キューバに向かい、港に停泊していた船に乗る。
慌しく引継ぎを行い出港する。 出港してひと段落した時点で思い出すのである。
「しまった、オレは日本で水先人の仕事をしてるんだった」
「それをやりっぱなして、船に乗ってしまった、どうしよう」
と、困り果てるのである。
大概に途中から夢と解るので、いい加減に夢を止めるべく眼を覚ます。
そして、夢であることを確認する。
そうでなく、夢がつづくこともある。
「困った。 今から船を近くの港に寄港させて、空路で日本に戻る手当てがないだろうか」
などといった念の入った顛末まで夢が続くことがある。
いずれにしても、冷や汗の出る夢であり、夢見のあとがよろしくない。
期間雇用の船長を辞め、水先業を始めた当初は、毎月のようにこんな夢を見た。
その後、徐々に回数が減ったものの、今でもまだ同じ夢を見るのである。
オレの人生の中で、よほど辛抱した7年間であったのだろう。
とにもかくも、あと2週間ばかりで、水先業も廃業し、完全な年金生活に入る。
40年続いた海や船との関わりも完全になくなる。
で、船に関したこんな夢を見ることもなくなるであろう。
それだけでもありがたい。