老婆がひとりでいた。
老婆は、目を大きく開いて三人を見た。
そして、柳川に視線を止めた。
と、突然に柳川の足元にひれ伏した。
両手を柳川の足の甲に押しつけて礼拝をした。
そして、柳川に向かって言う。
「待っておりました。よくぞ来ていただけました。
昔からの言い伝えがあります。
いつの日か、東から黄色い肌をした人が来ます。
そして、オランダを追っ払って自分たちを開放してくれるのです。
貴方は、その黄色い肌の人です。
ありがとうございます。
よく来ていただけました。」
富樫の通訳で、その全てを理解した柳川は、感動した。
これほどまでにインドネシア人に必要とされていたのか。
柳川は、腹の底からふつふつと湧く闘志を感じた。
老婆は、粗末ながらも十分な量の食料を三人の前に並べた。
粗末な竹造りの家に住む、貧しい老婆の好意だ。
これほどまでの食料を並べて、この後の老婆は困るはずだ。
そういうことを微塵にも感じさせない歓待だ。
柳川は、感激し、心に誓った。
「いつの日か、このお礼をする」
「必ずあなたたちを助ける」
老婆の家で十分に休息し腹をも満たした三人は、老婆に頼んだ。
ボゴールまで行きたい。
老婆は承知し自分の息子を呼び案内役につけてくれた。
若い孫二人が水と食料を持ち同伴してくれた。
二人の孫の動作は、特に機敏であった。
それを見て、柳川は思った。
「若い者は役に立つ」
ジャワ上陸以来、現地人を観察していた。
誰もが覇気のないように見受けた。
オランダ人に骨の髄までしゃぶられたのだろう。
が、こうして近くで見ると、光るものがある。
「若いものは役に立つ」
「恩返しは、若者の教育にしよう」
柳川は、その決意を胸にしまい案内役三人の後を追った。
彼らは、間道、裏道だけを通ってボゴールまで案内してくれた。
そこで、案内役の三人を返した。
目指す先は、バンドンであった。