余り語られていないということを書いた。
勿論、専門書にも書かれていない。
何故に語られないのか。
そういう場面に遭遇することが少ないからだ。
要するに.....
傾いた船がなかなか戻ってこないこと.....
すなわち、
傾いた状態がながーーーいこと。
通常はながーーくなんてないから理論されてこなかったのだ。
が、ながいがゆえに見逃すことができないことが起る。
その間の力が解析されてない。
ながーーい、と言ったって、せいぜい20~30秒のことだ。
さて、この間の船にかかる力をオレ流に解析する。
それが今回の急旋回の正体と思えるからだ。
語られないことは、大きく次の二つある。
1、転心点の前方移動による影響
2、船の横ずれによる影響
ひとつづつ書くことにする。
(転心点の前方移動による影響)
船が回頭する場合の中心点である。
船を上から投影した場合の重力の中心に近い。
通常はPと表記される。
pivoting point と呼ばれるからだ。
その位置は(図示のA)である。
このP点であるが、船が走り出すと前方の水を
押しながら進む抵抗で前方の見かけ重量が重くなり
P点は前に移動する(図示のB)
さらに、船が回頭する時、船は横に向くので、
その分、スピードがダウンする。
走っているものがスピードを落とすと、
どうなるかはお分かりですよね。
スピードダウンして加速度が変化している期間、
さらにP点は前につんのめる(図示のC)
さて、先に書いた遠心力に話を戻す。
遠心力は重量の中心にかかると省略して書いたが、
事実はこのP点を中心に船の前と後にかかる。
P点が前に移動したら、船尾の方の梃子が長くなる。
ということは、偶力として船尾を回頭の外の方にほおり出す力が大きくなる。
ということは、船首が回頭圏の内側に入り込むということでもある。
即ち、旋回を加速させるということになる。
これが、急激旋回の理由の一部である。
一部と書いたのは、全部でないからだ。
これに至る理由がある。
外側傾斜がながーい、
という理由からだ。
外側傾斜がながーいと
影響をながーく受ける。
その影響とは右の図示のとおり、
水の抵抗が増すという影響である。
傾いたことにより浸水面積が
増えるからである。
抵抗が増えると、
船は、その分早くスピードダウンする。
余計(急激)にスピードダウンするということは、
余計にP点を前方に移動させることになる。
P点が前に移動するということは、前述同様に旋回をあと押しすることになる。
こうした二つの相乗効果で船は急旋回する。
(船の横ずれによる影響)
さて、船が急旋回すると、どうなるかだが、
船は前方に進みながら、また回頭方向にも進みながら、少々横滑りする。
遠心力が生まれる前のそれまで直進してきた慣性力があるからだ。
直進の慣性を持ちながら回頭すると、船は横滑りしながら回頭する。
まあ、当たり前であることは、わかっていただけると思う。
で、横ずれしたあと空虚になった空間には、
海水がその空間を埋めようと、どーと入り込んでくる。
要するに横ずれ中は、海水も引き連れて横滑りするのだ。
この数値は、結構に大きい。
一万トンの排水量の船は、一万トンの海水を引き連れて、
計2万トンの力で横ずれすると言っても大げさではない。
この一万トンの力、
勿論90度の横ずれではないので、まあ、その10%ほどだろうが、やはり大きい力だ。
この大きい力がP点が前に移動し梃子が長くなった船尾部を押す偶力となる。
この偶力は、当然に旋回を助長させることになる。
これも急旋回に至る理由のひとつなのだ。
この力は、私はその程度を計算できない。
多分、実験値を含めた係数を利用して計算されるだろう。
ただ、船の操船中に横移動してしまった船、即ち横滑りを始めた船を停止させるには、
相当の力が必要なことは、水先案内の業務の経験の中から知っている。
で、相当に大きい数値になるだろうと想像できる。