1月3日午前4時半、全員出動準備完了し、
山野小銃隊を先頭に市来隊長、杉山と続き、
更に前川、広岡の機銃隊、
擲弾筒の林、酒井、
水冷重機の若林が従って35~36名の兵員数でありました。
アルジャサリ村に通ずる浅い谷を先頭が渡り始めました。
前川と広岡は進路が違うと杉山に伝えましたところ、
オランダ軍もまだアルジャサリ迄は下っていない筈であるから、
急遽アルジャサリ部落を横切り部落の東端に出ることになったということでした。
全員駆け足で部落を横切り、無事谷沿いの部落の東端に出て、
部落の端を上方目指して登って行きました。
部落の一番上の民家を過ぎると段々畑になっており、
トウモロコシの芽が10~15cm 伸び、
また畑の地肌が見える程度でした。
畦道を用心して登っていくと、部下が「敵だ!」と言うので、
良く見ると、やはり敵は村道を中心に展開し、
その右端はわが山野小銃隊から20m位離れたところに位置しておりました。
前川機銃の斜め前方40~50mにこんもり土の盛り上がった所があり、
その陰に敵兵がおりました。
前川は直ちに段々畑の端に機銃を据つけ、
いつでも射撃できる体制をとりました。
杉山重機は広岡の後にいたが、これも又、
大きな木の根を利用して重機を据つけました。
敵も既に我々に気づいている様でした。
然し、敵は身体を乗り出し中腰にならぬ限り我が方が見えず、
又、それは我が方も同じでした。
そんな緊張が極点に達している時に、
山野が我が重機前30m位の所の畦道を東側からトコトコ歩いて現れました。
敵前4~5mです。
前川も広岡も一驚しました。
已むを得ず…..
「敵だ! 山野下がれ」と、怒鳴りました。
敵も驚いた様子で4~5名が身を乗り出して周囲を見廻しました。
途端に前川が「撃つぞ!」と叫ぶと共に機銃が火を吹きました。
杉山重機も直ちに撃ちだし、敵も応戦して激戦となりました。
程なく敵の擲弾筒弾が頭を越えて東の谷に落下し始め、
物凄い爆発音が谷にこだまし響いてきました。
戦闘は双方の機銃の撃ち合いとなり、
小銃音は全く聞こえず、
小銃隊兵士の姿も見えませんでした。
近接の自動火器の前では日本の38式小銃は、
無用に等しい状態でした。
前川機銃が弾の突込みをやって、
射撃がぴたりと止まってしまいました。
前川の機銃の口蓋を開け、
広岡がドライバーとハンマーで弾を引き出し、
すかさず前川が射撃を始めました。
この間わずか数秒であったと思います。
この戦闘で杉山重機は15回以上弾の突込みを起こしましたが、
それ以外は好調で撃ちまくりました。
100発に一発位の割で入れてある曳光弾が尾を引き、
昼間とはいえ美しかったことを覚えています。
部落中央道路上に位置した敵擲弾筒の弾が、
前川機銃東前方10m位の所に「すほっ」と音を立てて落ちました。
前川はすばやく機銃を引き下げ身を伏せましたが、
弾は不発で白い煙を出したのみでした。
その後、擲弾筒の至近弾を2回も受けながら、
何れも不発であったことは幸いでした。
前川機銃は適時移動しながら射撃し、
且つ、しばしば弾の突込みを経験しました。
後方に我が擲弾筒部隊の林がいたので、
「源ちゃん擲弾筒は何で撃たんのか」と、怒鳴ると、
「弾を持った兵士がいなくて、弾無しだ」との返事が返ってきました。
その時、敵陣で物凄い爆発音と共に土煙が舞い上がりました。
それは山野が破甲爆雷を投げたものであったことが、
その後になった知りました。
「市来隊長はどうした」と、杉山が後ろで怒鳴りました。
「全然見ていない」と、答え、
ふと横を見ると、
山野小銃隊の兵士が軍刀を持っていることに気づきました。
「その軍刀はどうした」と、尋ねると、
「隊長は私の小銃を取り上げ、代わりに軍刀を残して、
山野小銃隊の方に行かれました」と、言いました。