あけっぴろげてあらいざらいのあるがまま



バリ島の地形(その10;ングラライ軍ー8)

パングジャラン村の戦い その2


(写真;中央のご婦人の叔父さんが戦死した)
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その西の方向から、自動小銃の音が聞こえてきた。

味方のサルジャ中尉隊の自動小銃だった。

サルジャ中尉隊は、昨夜から南の方の番屋で休んでいた。

外から見て、本隊が西に逃げるということを事前に察していた。

で、本隊の西に廻り、敵が待ち伏せるのを待ち伏せていたのだ。


西に廻ろうとした敵は総崩れし、退却した。

ただ、この時のサルジャ中尉隊の自動小銃は、弾が一五発しかなかった。

九発撃って、残り四発しか残っていなかった。


ングラライ隊は、開けた西に向かって谷を降りた。

少し降りたら、平らな台地があった。

先ほどの位置から百メートルほど離れている。

その台地に布陣し、敵の動向をうかがった。

午後五時三〇分ごろだった。

あたりが暗くなり始めた。

オランダ軍は、決して夜は戦いを仕掛けてこなかった。

それは、今までの体験からわかっていた。

待ちに待った、その夜がきた。


ングラライ隊は、台地から抜け出ようと動いた。

七時ごろだったろうか、その時であった。

北の方角で爆発音が響いた。

とたん、味方の隠れた台地が明るく照らされた。

昼間のような明るさだ。

照明弾だ。

照明弾など見たこともない隊員が多かったのでパニックになった。

台地の真ん中に迫撃砲弾が落ちた。

隊員はますますパニックになり、西に南に逃げた。

逃げ終えて空になった台地に迫撃砲弾があられのように降ってきた。


間一髪であった。


南に逃げた者も西に逃げた者も、ゆくゆくは同じ谷底に落ちて行った。

暗くて何も見えない。

下に下にと落ちてゆくだけだった。

道はなかった。

雨水の流れ道があった。

その道を辿りながら谷へと落ちて行った。


みんな疲れていた。

ここまでは追ってこない。

とりあえず寝ることにした。

が、寝る場所を探せない。

誰かが木に足を踏ん張って寝た。

その者の肩を踏み台にして、木にしがみつき誰かが寝た。

その誰かに背中をくっつけて誰かが寝た。

そんな夜が明けて、翌日になった。


ばらばらになった隊をまとめるのが大変だった。

サルジャとダンガが谷に落ち上がれなくなっていた。

そこには、ジャワ海軍部隊の何人かも一緒だった。

八メートルほど下の穴に落ちていた。

直径一メートルほどの穴に押し合いながら座っていた。

身動きできない風だった。


みんなで引っ張り上げた。

深い谷底を彷徨する


ングラライ隊は、滑るように谷底に落ちて止まった。

ングラライは、ウィスヌに指示して全部隊の点呼をとった。

スギアニャール大尉隊は、アグン山を越えなかった者が七名いた。

(日本人二人を含む)


その七名は、隊に帰って来なかった。

ブランディンガン村では、ひとりが行方不明になった。

昨夜、パンガジャラン村では、二人が戦死した。

ウィジャナ大尉のタバナン隊の一個小隊が行方不明だった。

その一個小隊は、クレデック軽機隊であった。

マルカディ大尉のジャワ海軍隊は、全員そろっていた。

スイジャ大尉のブレレン隊は、全員そろっていた。

ムディタ中尉のバンリ隊は、全員そろっていた。

ディアサ中尉の対空射撃小隊は、全員そろっていた。

ピンダ中尉の擲弾筒部隊も全員揃っていた。

ウィスヌ少佐指揮下の本部スタッフは、四名が行方不明であった。

以上が谷底に集まった小スンダ連隊本隊の約三百名であった。


全員が空腹だった。

小銃や機関銃はあったが、弾丸はほとんどなかった。

オランダ軍や山のオランダ兵は、この様な状態を知っているだろう。

オランダ軍にとっては、牙と爪を失った大虎同然だ。

ングラライは思った。

大虎よりも猫かネズミの方が良かったかも知れない。

逃げ回れるし、食料を探すのも楽だ。

ングラライ隊は、士気が低下している。

戦う弾丸がなく、生きる食料が不足している。

なのに、敵はだんだんと士気があがっているように思える。

以前は、夜には、戦って来なかった。

が、今は昼夜、戦いをしかけてくる。

以前は、一方から攻めてきた。

が、今は、二方、三方より挟み撃ちに来る。

戦う人数が増えている。

村人の多くが、親蘭派になっている。

なぜに、村人が、こんな風になったのだろうか。

理由はふたつあった。

ひとつは、脅されて恐怖がゆえに親蘭派になった。

もうひとつは、オランダ軍の効果的な宣伝だ。

メラプティ派は、強盗や盗賊で社会を混乱させている。

そんな風に言いふらして、それを信用する村人も多い。

いずれにしても、オランダは長い宗主国の経験があった。

植民地の住民を手なずけるに慣れていた。

今のングラライは、どうしようもできなかった。

谷底を逃げるのみであった。

が、谷底を逃げるのも全く安全とは言えなかった。

時々、飛行機が襲ってくるのだ。

飛行機は決まって、昨夜宿営した場所に爆撃弾を落とす。

崖の上から村人が見つけて通報するのだろう。

で、宿営しても夜明け前に起きて、その場所を抜けだした。


どれだけ歩いたろうか。

谷が浅くなった場所に出た。

少し登れば、道路のようなものがあるようだ。

まばらだが、人家がある。

斥候を出し、確認すると、クランディス村という。

それに嬉しいことに村民の全てがメラプティ派とのこと。

ングラライは、全員が谷から出るよう命令した。


(写真;パングジャラン村にある闘争モニュメント)
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by yosaku60 | 2017-07-03 07:56 | バリ島での独立戦争 | Comments(0)
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