平成2年11月10日
関係先各位
グロリアピーク
船長 吉井洋司
Voy.44A 密航者の件(報告)
平成2年10月19日、リオハイナ港(ドミニカ共和国)にて、2名の密航者を乗せ、11月10日サントス港において、送還させるまでの顛末とその間に要した費用につき、ご報告申し上げます。
なお、この費用(費目)については、現時点の本船サイドに於いて思いつくままに記述するのであって、他所においてのこれ以上の費用の発生、当然にあること念のため申し添えます。
記
(密航者送還までの顛末)
1、密航者侵入
密航者はペドロ(25歳)、リオン(16歳)の腹違いの兄弟である。 密航計画は全て弟のリオンがたてた。兄ぺドロは、リオンに唆されなんとなく決行に加わる。
10月17日、本船がリオハイナ港に入港する一日前、リオンは兄を誘い、さらにその密航計画を農夫である父、3歳年上の恋人及び数人の友人に電話で話す。全員に反対されるも彼の決行の意志は変わることはなかった。 密航理由は「お金がない」からであった。密航先はブラジルではなく、アメリカに行きたかった。しかし、どの船がどこの港に行く等の情報を得る手段は知らず、彼にとっては、とにかく港に来た船に乗ることだけだった。10月18日、18時47分、グロリアピークは、リオハイナ港のコンテナ岸壁NO.1に近づき、左舷錨を入れ、ドレッジングさせながら接岸、18時55分最初のラインを送り着岸。19時15分着岸作業終了する。
密航者はこの時点で本船に狙いを定める。20時00分、人影が途絶えた時を狙い海に入る。
錨鎖を伝いフォックスㇽに出る。 そこからデッキに降りる。 人影が見えるので最も近いストアーに入る。
ボースンストアーである。鍵がかかっていない。 ストアーの中をウロウロする。 NO.1艙に入る
アクセスハッチを見つける。 そこから艙内に入る。 ハッチカバーとコンテナーの空間に身を入れ隠れる。
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(解説)
Voy.44A ; Voyageの略で、航海次数のこと、
本船が処女航海から数えて44回目の航海。 A は往航、 Bは復航。
錨鎖を伝い; 絵のとおりが、これはイメージだけ。
実際には船がもっと大きく人間はもっと小さい。
人間は絵の4分の1ほど....
ボースンストアー; 船の船首に近いところにある倉庫
アクセスハッチ; 上下に通ずる出入り口、重い鉄蓋がついている。